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丹月流とは?茶道家・丹下明月が宝和園に伝えた茶道と、掛川深蒸し茶のお愉しみ方

日本茶の歴史 2026.09.18.
天福茶博物院の前の丹下先生御一行


はじめに「丹月流」をご存じでしょうか

皆様は、“丹月流(たんげつりゅう)”という茶道の流派をご存じでしょうか。

丹月流とは、茶道家・丹下明月(たんげめいげつ)が1984年に創始した茶道の流派でございます。

伝統の「和敬清寂(わけいせいじゃく)」を礎としながら、新たに「礼・和・敬・楽(れい・わ・けい・らく)」という理念を掲げ、日本国内のみならず、海を越えた中国の地でも、長きにわたり茶道の心を伝えてまいりました。

そして宝和園にとりまして、丹月流はけっして遠い存在ではございません。

2011年、中国・寧波(ニンポー)で開かれた国際的な茶の会議において、掛川深蒸し茶の健康的な飲み方が「丹月流宝和園茶道」として紹介され、その内容が論文集に収録されるという、たいへん光栄なご縁をいただいているのでございます(このお話は、のちほど詳しくご紹介いたします)。

本稿では、丹月流という流派のこと、宗家・丹下明月の歩み、そして私共とのご縁を、一碗のお茶を差し上げるような心持ちで、順にお話し申し上げます。

宝和園のエンブレム
監 修
宝和園 八代目店主・茶師 岡本義明
― 農林水産大臣賞 5度受賞 ―

茶問屋「宝和園」8代目当主の岡本義明です。宝暦年間(1750年代)に、岡本家が静岡県掛川に根を下ろし茶業に携わるようになって以来約250年。その伝統が生み出す味と香りを長年の修行により体得し、1987年に8代目を襲名いたしました。

受賞歴:●全国高級煎茶品評会 最高級煎茶の部「農林水産大臣賞」5回受賞 ●全国高級煎茶品評会 高級煎茶の部「東京都知事賞」6回受賞 ●全国高級煎茶品評会 最高級煎茶の部「名人」5回受賞 ●その他、「通商産業大臣賞」、「静岡県知事賞」、「大阪府知事賞」など多数。


丹月流とは「礼・和・敬・楽」の茶

茶を点てる丹下先生

丹月流は、丹下明月が1984年に創流した茶道の流派でございます。2000年には香道を分流し、以来「茶道香道丹月流」として受け継がれております。

その理念は、茶の湯に古くから伝わる「和敬清寂」を礎としつつ、新たに掲げられた四つの文字、「礼・和・敬・楽」に凝縮されております。

  • 礼――儀礼と規範。まず相手と場を敬う、心のかたちでございます。
  • 和――人と人、亭主と客の調和。
  • 敬――うやまう心、恭敬。
  • 楽――心から茶を愉しむ、喜びの心。


「礼」に始まり「楽」に至る、この四文字の並びが、私共はたいへん美しいと感じております。

作法はあくまで入口であり、行き着く先は、一碗を心からお愉しみいただくこと。いわば、格式と親しみやすさが一つの流れのなかに結ばれているのでございます。


丹月流には、こうした理念を映した、いくつかの際立った特徴がございます。

  • 点前(てまえ)に音楽を用いること。静かな所作に調べを添え、茶席を和やかに彩ります。
  • 立ったまま行う「立礼(りゅうれい)の点前」や、椅子に腰かけて楽しむ椅子式の点前を多く取り入れていること。正座に馴れない方や、海外の方にも親しんでいただけます。
  • 亭主と客が言葉を交わす場面が多いこと。もてなす側と招かれる側の心が、自然と通い合います。
  • 抹茶だけでなく、煎茶・紅茶、さらには中国茶までを視野に入れ、世界の茶を分けへだてなく味わおうとすること。


茶室の格式を大切にしながらも、時代や場所、そしてお客様に合わせて、茶の愉しみをしなやかに開いていく――そうした姿勢が、丹月流という流派の持ち味なのでございます。


世界に茶道を伝えた宗家・丹下明月

「日茶文化與茶經濟學術研討會」(日本茶文化と茶経済学術セミナー/シンポジウム)

丹下明月宗家は1930年にお生まれになり、1960年、茶道の道へと歩みを進められました。

そして1984年、みずからの流派・丹月流を創流なさいます。日本では数少ない女性の茶道宗家として、その歩みはやがて、国境を越えてまいります。

転機は1991年でございました。

宗家は中国で日本茶道の講義を開始されます。翌1992年からは浙江樹人大学の客座教授に就任され、以来20年以上にわたり、毎年教壇に立ち続けられました。その教えを受けて茶道の課程を修了した学生は、約千人にのぼると伝えられております。

北京、上海、湖州、そして寧波――中国各地で茶道を披露し、一碗のお茶を通じて、日本の心を静かに、しかし確かに伝えてこられたのでございます。

中国茶事典に載る唯一の日本人

『中国茶叶大辞典』(陈宗懋主編, 2000)p.36 の図版写真の丹下明月先生
『中国茶叶大辞典』(陈宗懋主編, 2000)p.36 図版写真の丹下明月先生


宗家の中国での歩みは、一度きりの披露にとどまるものではございませんでした。

宗家は、外国人としてはじめて中国の大学で茶を教えた人物のひとりと伝えられております。

当初は課外の集まりから始まった講座は、やがて1990年代なかばには、浙江樹人大学の正式な学科の必修科目として日本茶道が取り入れられるまでになりました。宗家は同大学のために専用の点前を考案し、道具の扱いから所作の一つひとつまでを、ていねいに体系立てて伝えられたと申します。その教えは杭州にとどまらず、中国各地の茶の作法にも静かに影響を広げてまいりました。

茶の本場である中国において、日本から渡った一人の女性茶人がこれほどに信を得たことは、まことに稀なことでございます。

中国の茶の事典に写真が載る唯一の日本人とも伝えられ、その存在の大きさがうかがえます。

その貢献は中国の側からも深く敬されました。

杭州の中国茶葉博物館へは茶道具・和服・書画を寄贈するなどの貢献をなさり、浙江省より「西湖友誼賞」を受けておられます。また、中国国営テレビCCTVの茶ドキュメンタリー『茶・一片の葉の物語(茶・一片树叶的故事)』でも、その活動が紹介されました。

宗家は2018年に逝去されました。

同年、東京・品川には、日中の茶道を愛する人々ら約80名が集い、「偲ぶ会」が営まれたと伝えられております。国も言葉も異なる人々が、一人の茶人を偲んで一堂に会する――茶の道が結んだご縁の深さを、何よりも物語る光景ではないでしょうか。


略年譜

  • 1930年 誕生
  • 1960年 茶道の道へ
  • 1984年 丹月流(茶道)を創流
  • 1991年 中国で日本茶道の講義を開始
  • 1992年 浙江樹人大学 客座教授に就任
  • 1995年頃 浙江樹人大学で日本茶道が学科の必修科目に
  • 2000年 香道を分流
  • 2018年 逝去(同年、東京で偲ぶ会)


日本から中国へ 丹月流がつないだ茶の交流

茶は、もともと中国から日本へと伝わったものでございます。けれども茶をめぐる文化の行き来は、けっして「中国から日本へ」の一方向だけではございません。

近年の学術研究でも、丹下明月宗家が中国・杭州の中国茶芸(ちゃげい)の復興に寄与したことが取り上げられております。

文化大革命ののち一度は途絶えた中国の茶芸が1990年代に息を吹き返すなかで、宗家の伝えた日本茶道の所作や心づかいが、現地の茶の作法に少なからぬ影響を与えたと論じられているのでございます。

日本から中国へと渡った茶の心が、めぐりめぐって茶の故郷を潤す。丹月流の歩みは、その一つの証と申せましょう。


宝和園と丹月流のご縁「丹月流宝和園茶道」

さて、ここからは私共のお話でございます。

宝和園は、宝暦年間(1750年代)より静岡県掛川で茶業に携わってまいりました老舗の茶問屋でございます。八代目店主・岡本義明は、全国高級煎茶品評会において農林水産大臣賞を5度受賞いたしております。

2011年、中国・寧波で開かれた「茶と健康」研究会(国際的な茶の会議)において、丹月流の関係者――丹月流理事で浙江樹人大学の客座教授でもある立山尚明(たてやまなおあき)らにより、掛川深蒸し茶の健康的な飲み方が「丹月流宝和園茶道」として紹介されました。

その内容は論文集に収録され、東海大学の研究業績目録にも採録されております。記録の正式な表記は、次のとおりでございます。

「“長寿日本一は掛川の深蒸茶” 深蒸緑茶の健康的飲み方:丹月流宝和園茶道」

(『科学飲茶益身心』中国・寧波「茶と健康」研究会論文集, 2011年4月, P215-216/東海大学 2011年度 研究業績目録に採録)

なお、「長寿日本一は掛川の深蒸茶」は当時の講演題として記録に残る表現の引用でございます。もちろん、お茶は食品であり健康効果を保証するものではございません。

日本の茶道の宗家とその一門が中国へ心を伝え、その流れのなかで、掛川の一軒の茶問屋の名が、海の向こうの学術の記録に刻まれる。私共はこのご縁を深い感謝とともに大切にいたしております。


茶道の心で味わう、掛川深蒸し茶

丹月流の理念の結びは「楽」――心から茶を愉しむこと。ですから皆様にも、難しい作法は脇に置いて、まずは一服の掛川深蒸し茶をていねいに淹れることから、お愉しみいただきたいのでございます。

淹れ方の要点は、じつに簡単でございます。70~80℃に少し冷ましたお湯で、やや多めの茶葉を、短めに蒸らす。ただそれだけで、深蒸し茶ならではの世界が湯呑みのなかに立ちのぼります。

湯呑みを満たすのは、吸い込まれるような濃い緑の水色(すいしょく)。口に含めば、とろりとした旨みが舌の上にゆっくりと広がり、飲み終えたあとも、甘やかな余韻がしばらく残ります。

細かな茶葉が湯にほどけて生まれる、この“とろり”とした口あたりこそ、深蒸し茶の醍醐味でございます。湯気の向こうに立つ香りに目を閉じれば、掛川の茶畑を渡る風まで感じていただけるのではないでしょうか。

詳しい淹れ方につきましては、別の記事にてご案内いたしております。ぜひあわせてご覧くださいませ。


よくある質問(FAQ)


Q1. 丹月流とはどんな流派ですか?

A. 丹下明月が1984年に創始した茶道香道の流派でございます。「礼・和・敬・楽」を理念に掲げ、点前に音楽を用いたり、椅子式の点前を取り入れたりと、時代や場所に合わせた親しみやすい茶道を、日本や中国で広く伝えてまいりました。


Q2. 「丹月流宝和園茶道」とは何ですか?

A. 掛川深蒸し茶のたのしみ方(健康的な飲み方)が、2011年に中国・寧波の国際的な茶の会議で「丹月流宝和園茶道」として紹介され、論文集や東海大学の研究業績目録に記録されたものでございます。


Q3. 茶道の心得がなくても掛川茶を愉しめますか?

A. もちろんでございます。丹月流が大切にした“心で味わう”精神のとおり、作法にとらわれず、ていねいに淹れた一杯を、どうぞ気軽にお愉しみくださいませ。


まとめ 一碗の茶が結ぶ縁

丹月流は、丹下明月宗家が1984年に創流し、「礼・和・敬・楽」の心とともに、日本と中国の間に茶の橋を架けてきた流派でございます。

音楽を添え、椅子席をしつらえ、言葉を交わしながら――時代とお客様に寄り添うそのしなやかさは、茶の故郷・中国の茶芸の復興にも、静かな影響を与えてまいりました。そしてそのご縁は、2011年、「丹月流宝和園茶道」というかたちで、掛川の私共のもとへも届いたのでございます。

一碗の茶は、人と人を結び、国と国を結び、時代を超えて文化を結びます。

宗家が海を越えて伝えたものも、私共が皆様のお手元へお届けしたいものも、詰まるところ同じ――ていねいに淹れた一杯に宿る、和みの心でございます。


出典

  • [1] 浙江樹人大学(丹下明月 客座教授としての活動記録)
  • [2] CCTVドキュメンタリー『茶・一片树叶的故事』(第6集)
  • [3] 日中商報/華人号「丹下明月を偲ぶ会」報道(2018年・旅日華僑 常嘉皋 提供)
  • [4] 百度系百科『丹下明月』項
  • [5] 「“長寿日本一は掛川の深蒸茶” 深蒸緑茶の健康的飲み方:丹月流宝和園茶道」『科学飲茶益身心』中国・寧波「茶と健康」研究会論文集, 2011年4月, P215-216/東海大学 2011年度 研究業績目録採録
  • [6] 宍戸佳織「杭州市における中国茶芸復興に関する一考察―日本茶道丹月流と中国茶芸―」『生活学論叢』20号, 2011, pp.103-110(日本生活学会)

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