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お茶の「火入れ」とは?香りと味を決める仕上げの工程を、共著論文をもとに老舗茶問屋の茶師が解説

健康 2026.07.03.


はじめに|お茶の「火入れ」って、何をする工程?

同じ茶葉でも、お店やお茶によって香りや味わいが少しずつ違う、その差を生む大切な仕事のひとつが「火入れ(ひいれ)」です。

「聞いたことはあるけれど、何をしているのかよく分からない」という方も多いのではないでしょうか。

火入れとは、産地でつくられた「荒茶(あらちゃ)」を仕上げる際に加熱する工程で、余分な水分を整え、香ばしい香りを引き出し、味わいをまとめる、お茶の“最終仕上げ”です。

この火入れの加減や方法によって、お茶の香りも成分の出方も変わります。

本稿では、宝和園の茶師である八代目店主・岡本義明が**共著者として参加した学会誌の研究論文**の知見も交えながら、火入れという奥深い工程を、わかりやすくご説明いたします。

宝和園のエンブレム
監 修
宝和園 八代目店主・茶師 岡本義明
― 農林水産大臣賞 5度受賞 ―

茶問屋「宝和園」8代目当主の岡本義明です。宝暦年間(1750年代)に、岡本家が静岡県掛川に根を下ろし茶業に携わるようになって以来約250年。その伝統が生み出す味と香りを長年の修行により体得し、1987年に8代目を襲名いたしました。

受賞歴:●全国高級煎茶品評会 最高級煎茶の部「農林水産大臣賞」5回受賞 ●全国高級煎茶品評会 高級煎茶の部「東京都知事賞」6回受賞 ●全国高級煎茶品評会 最高級煎茶の部「名人」5回受賞 ●その他、「通商産業大臣賞」、「静岡県知事賞」、「大阪府知事賞」など多数。

学術面でも、『火入れ工程におけるマイクロ波加熱処理の製茶風味成分への関与』(日本食品科学工学会誌 43巻11号, 1996)に共著者として参加。


火入れとは?|荒茶を「仕上げる」再製の工程

茶畑で摘まれた茶葉は、産地の製茶工場でまず「荒茶」に加工されます。

荒茶は水分をやや含み、茎や粉なども混じった素の状態のお茶です。この荒茶を、私たちのような茶問屋が「選別・火入れ・合組(ごうぐみ=ブレンド)」という工程で仕上げ、はじめて製品のお茶になります。

そのなかで火入れは、加熱によって水分を整え、貯蔵性を高めるとともに、お茶ならではの香ばしい香り——「火香(ひか)」を引き出す、香味を決定づける工程でございます。


火入れで生まれる「火香」の正体


火入れの加熱によって、お茶には香ばしい「火香」が生まれます。

これは、加熱の過程で生成されるピラジン類・ピロール類といった香気成分によるものだと、研究で報告されています。ふっくらと香ばしい仕上がりのお茶は、この火入れの妙によるものなのです。


加熱の方法で、香りも成分も変わる|共著論文より


では、火入れの“方法”が変わると、お茶はどう変化するのでしょうか。この点を科学的に調べたのが、私共の茶師・岡本義明が共著者として参加した、次の研究です。

出典:久保田紀久枝・粂内智美・小林彰夫・大澤芳夫・中嶋年朗・岡本義明 「火入れ工程におけるマイクロ波加熱処理の製茶風味成分への関与」 日本食品科学工学会誌 第43巻11号(1996年)


この研究では、荒茶を「従来の熱風乾燥」で火入れした場合と、「マイクロ波加熱」で火入れした場合を比較しました。その結果、報告された主な違いは次のとおりです。

  • 香り:マイクロ波加熱では、火香に寄与するピラジン類・ピロール類の生成が、熱風乾燥に比べて顕著に抑えられた
  • 成分①:マイクロ波で処理したお茶は、カフェインの浸出量が有意に低い傾向がみられた
  • 成分②:エピカテキンガレートやエピガロカテキンガレート(カテキン類)の浸出量も、有意に低い傾向がみられた


つまり、同じ荒茶でも“どう火を入れるか”によって、香ばしさの立ち方も、湯に溶け出す渋み・カフェインの量も変わってくる——火入れがいかにお茶の個性を左右するかが、うかがえます。


火入れの加減で、お茶の表情はこう変わる

  • 浅い火入れ:若々しく爽やかな香り。緑の色味や新鮮な風味を活かしたいお茶に
  • しっかりした火入れ:香ばしくまろやか。落ち着いたコクのある味わいに

どちらが良い・悪いではなく、茶葉の持ち味や目指す味わいに合わせて火入れを見極める——ここに、茶師の経験と技が生きます。


宝和園の火入れ・仕上げへのこだわり


私共・宝和園は、荒茶を仕入れて仕上げる茶問屋として、掛川深蒸し茶をはじめとする茶葉の持ち味を最大限に引き出す火入れと合組(ブレンド)を大切にしてまいりました。

農林水産大臣賞を5度受賞した八代目店主・茶師の岡本義明が、一杯一杯の香味を見極めながら仕上げております。研究の知見と、長年の手の感覚——その両方が、私共のお茶の味を支えております。


よくある質問(FAQ)


Q. 「火入れ」と「焙煎(ほうじ茶)」は違うのですか?

A. どちらも加熱ですが、火入れは仕上げのための比較的穏やかな加熱で、緑茶の色や風味を保ちます。ほうじ茶は、より高温で強く焙(ほう)じて、香ばしさを主役にしたお茶です。


Q. 火入れをすると、カテキンなどの成分は減ってしまうのですか?

A. 加熱の方法によって、湯に溶け出す成分の量に差が出ることが研究で報告されています。「減る・増える」と一概には言えず、香りと味のバランスを見て最適な火入れを行うのが茶師の仕事です。


まとめ|一杯の香ばしさは、火入れの技から

お茶の火入れは、荒茶を仕上げ、香りと味わいを決める大切な工程です。

火入れで生まれる「火香」、そして加熱の方法で変わる成分の出方——その奥深さは、私共の茶師が共著した研究でも確かめられています。

次の一杯を口にされるとき、その香ばしさの向こうにある火入れの技に、少しだけ思いを馳せていただけましたら幸いです。

掛川深蒸し茶をはじめ、丁寧に火を入れた宝和園のお茶を、どうぞお愉しみください。

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出典

[1]
久保田紀久枝ほか(共著:岡本義明)「火入れ工程におけるマイクロ波加熱処理の製茶風味成分への関与」日本食品科学工学会誌

43(11), 1996. J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk1995/43/11/43_11_1197/_article/-char/ja/

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